名前

かなり前の話である 私は喘息の持病があり 長い間発作に苦しんできたが ステロイドの吸入薬が出来るようになると発作が出ることはほとんど無くなった しかし 風邪を引くと 病が思い出したように喘息の症状を示すことがある 病院からの薬で発作が抑えられるが それでも症状があるときは薬局にいってアストフィリンという薬を買ってくる これは長い間 喘息の薬であったエフェドリンが成分に入っているからである エフェドリンは喘息の発作に良く効くのであるが覚醒作用があり一般の発売が出来なくなってしまった 若者が覚せい剤の代用として使い始めたためである
アストフィリンをくださいというと 薬局の店員は ではここに署名してくださいといって小さな紙の印刷物を渡された こうしないと買えないと言う あいにくと私は右手を骨折していて書くことが出来なかった 変わりに書いてくださいとお願いすると お名前は?クツザワです すると靴沢と書いたので クツは水のしたにヒ(日)ですというと 水の下に火をかいた 言い方を変えて水の下にニチ(日)ですというと 水の下に日を書いたのであるが今度は離して書いたので水日のようになった 少しいらいらしてきたがくっつけて書いてくださいということでようやく出来上がった つまり店員は沓という字を見たことが無かったのであろう 沓の字はそれほど一般的でないらしく 前にも名前を呼ばれるとき ヨウザワさんとか トウザワさん フミザワさんなどと呼ばれた 私の小学校の記念写真で私の名は 水口沢になっていた 面倒だ 山本や田中なら簡単で良かったのにと思った
ちかごろの子供の名前が読めないものが多いという 親はわが子が個性的で特別であることを望んで凝った名を選ぶ傾向があるためというが カナをふらないと読めない名前は 後から面倒にならないのであろうか