買出し

私が食いしん坊なのは 戦時中の食糧難で食べられなかった時の反動ではないかと思う 食料が不足すると 食べたい 食べたいと 考えることのかなりの部分が そのことに占領されてしまう 配給米はあったが 育ち盛り食べ盛りあった兄弟には足りるはずもなかった 山形の新庄市に叔父が住んでいた 私と弟が何回か米を買出しに山形県に赴いた 列車は混んでいて つらかったが 食べられないのはもっとつらかった 
この買出しに関して 不確かだが 大変な思いをした記憶が断片的に残っている この買出しにどうしてか 妹が参加した記憶である いまでは何で非力の妹が参加したのかよくわからない 私 弟 妹 だったのか 私と妹だけだったのか とにかく 東北本線青森行きの列車は 信じられない超混雑であった 一緒に乗り込んだはずなのに 妹がいないのである パニックであった あまり混雑のために 群集に揉まれて 離れ離れにされたのだ やがて 列車は動き出した 列車の中を可能な限り見渡して見たが 妹がいない おそらく ひとつ後の車両でないか 安心しろと 自分に言い聞かせたが不安である 自分は兄貴だという責任感がのしかかっていた やがて列車は すこし大きな駅に止まった 幾ばくかの客が降りたので 私も降りて後の車輌に乗り移る 妹を探す目的である ところが降りたのはいいのだが 乗り込もうとしても 人が多くて乗り込めない 焦った デッキにしがみつく感じでかろうじて乗り込んでみたものの デッキまで人がいるので 戸が閉まらず寒風が容赦なく入ってくる 急行列車なので次の駅までが長く このままの状態が長い間続いた 死ぬような思いとはこのことかと思った
次の駅で少し中に入ることができたが 満員で人を探すことなどとてもできなかった かなりの時間が過ぎ 人が降りたので 車内を進むことができた 妹が通路で 持ってきたバスケットのようなものに座っているのが見えた