買出し(2)

食糧難は終戦後も続いた そんなある日 洪水に見舞われて 埼玉県入間川が氾濫して 附近のサツマイモの畑が水浸しになった サツマイモは冠水すると がりがりして とてもまずくなる しかし食糧難の多数の都会の人たちがこの冠水芋を買い求めて買出しに来ている ということが新聞に出た それでは出かけて買ってくるかと 弟と出かけた 記憶では 弟が この付近の拝島というところで勤労奉仕の動員があり いくらか詳しかった
農家を一軒一軒回り 冠水芋を売ってくださいという 電車賃だけ残して 米も少し買ったと思う さて帰ろうとしたとき 道は遠く駅を離れてしまっていた てくてく歩いていると リヤカーを引いて自転車に乗った若者がどこまで行くんだと声をかけてくれた 駅までというと “それは大変だ リヤカーで送ってあげようという”2人と荷物を載せたリヤカーは大変重いと思われるが 若者は自転車をこいで駅付近まで送ってくれた いくらかでもお礼をしたかったが 電車賃しか残っていなかった 仕方がなく 何回と無くお礼の言葉を言っただけだった やっとのことで駅に着いたとき 駅の階段で 腕章をした人に呼び止められた 闇米の取り締まりだと気がつた せっかく苦労して買ってきたものが取り上げられる 青くなった 顔色が変るのがわかったのだろう “大丈夫です ただどこから仕入れてきたか聞くだけです”と係官 そして そばにいた同僚の係官に “ちょっと聞くだけであんなに青くなってしまっていては かわいそうで取り上げられないよ”というささやきが聞こえてきた