事故

 

沖倉耳鼻咽喉科医院の話が出てきたが この医院には弟も厄介になった なぜそうなったか これは兄である私に責任があった ある夏の夕方 弟と花火を楽しんでいた その頃の花火は 線香花火 ネズミ花火 電気花火 などなどである その中で最も傑作と思えるのは線香花火だと思う 寺田虎彦だと思うが 線香花火の文が旧制中学の国語の本に載っていた 火の玉から始まり それから松葉という光りがパチパチとでる それが激しくなりついに燃え尽きようとしたとき ちり菊という柳の葉のような光になりやがてもえ落ちる 何とも音楽や詩に例えるように変化する花火である 

ネズミ花火は輪のような形をして先端に火をつけるとロケット効果でグルグルと回りだし あちこちと飛び跳ねてたまに足元を襲うので子供には怖い花火であった 

電気花火はやたらに明るい光を発射する花火である 斜めに向けるとその方向に火の粉が飛んでスリルがある 

問題はこの電気花火で遊んでいた時に起こった うっかり動かした方向に弟がいた 火の粉の一部が弟の顔面に当たり悪いことに は鼻の孔に火の粉が入ったのだった 私は事の重大さに動転 真っ青になり ただおろおろするだけであったが 家族は もちろん大騒ぎとなり 弟は沖倉医院に直行することになる

何日かの通院を繰り返して弟は回復するのだが 弟が成長しても 鼻をよく見ると鼻の孔の左右の大きさが少し違っていたのが分かる 花火のやけどでそのようになったのであろう 幸い 特に目立つ傷ではないのだが それを見ると 其の事故の責任を思い出して すまないことをしたと 負い目を感じてしまうのである その弟は10以上前に亡くなってしまったのだが