コーヒー

私がコーヒーをはじめて飲んだのはいつのことだったろう 山形県にいたときはもちろん飲んでいない 一家が東京に出てきたからであるから小学校3年生以後 つまり昭和10年ごろであろう 母がコーヒーを入れてくれた 缶入りのコーヒーの引き割り粉を土瓶で砂糖と一緒に せんじ薬よろしく 煮立てたものを飲んだ 砂糖がたっぷり入っていたのでとても甘くおいしかった かなり成長するまでコーヒーとはこのように大変甘いものと思っていた 不思議に感じたのは コーヒーの缶に カフエ パウリスタ と書いてあった
そのころ カフエ というと 銀座のカフエなど ある風俗営業を意味した カフエには女給さんがいて そこにのみに来る男性にビール酒などのサービスをしていた
そのころ流行っていた 歌に 女給の歌 というのがあった 家にいた女中さんが歌っていたのでおぼえたのだ
  わたしゃ 夜咲く 酒場の花よ
  赤い口紅 錦紗の袂 
  ネオンライトで 浮かれて踊り
  さめて悲しい 涙雨
節は “昔恋しい 銀座の柳” の東京行進曲によく似たメロディーであった
そんなこともあり このコーヒーはカフエで売り出されたものなのかと思っていた
カフエがコーヒーのことだと知るのはかなり長じてからである カフエ パウリスタというのはコーヒーメーカーの会社の名前らしい インターネットで調べてみると 懐かしいことに カフエ パウリスタは今でも存在していた それどころか 大正時代から経営された店が 銀座にいまでも コーヒー店としても残っていて 芥川龍之介などもここの客だったそうだ 私も今度足を運んでみよう 
(参考)パウリスタのホームページは
http://www.paulista.co.jp/