昔の田舎

近頃の犯罪の多さにはびっくりする 殺人は毎日のようにあり 強盗 空き巣 詐欺 ひき逃げ 性犯罪 等々 枚挙に暇がない どうしてこのようになってしまったのか 戦争がないのは本当にありがたい でも安心できない社会になってしまった 少し前まで病院で呼ばれると 手荷物は待合室に残しておいた 近頃は診察室までもって行くことにしている
昔の話をすると 山形県の私の村では 夜 戸締りをする習慣がなかった それだけ安全だったのである 全村が知り合いだったせいもある だからどこどこにお嫁さんが来るなどのニュースは全村の人の知るところとなる
隣は何をする人ぞ という都会の生活とは正反対の社会であった 私が覚えている犯罪らしいものはない ただ誰かが猫いらず(ねずみ駆除用の毒薬)を飲んで自殺したという話を聞いたことがある
戸締りをしないので出入りに便利だった ただ へんちん(雪隠=便所)が 臭いなどを避けるため家と少しはなれたところにあった 夜など へんちん にゆくのが怖かった 
誰から聞いたのだかわからないが おぼめ?の話である へんちん に赤子を抱いた女が立っていて この あかこ たがって けらっしぇ(この赤子を抱いてください)という
こわごわ その通りにすると 女は去ってゆき 抱いた赤子が残されるのであるが この赤子がだんだん重くなる 耐え切れなくなってふと見ると大きな石を抱えていた
危害を加える話でないが子供にはとても怖かった それで大抵は へんちん に行く前の庭で用を足した 庭の土の中の無数のバクテリアがそのつど それを分解してくれたものと思っている
もう何十年と田舎に行っていない まだ戸締りをしていないのか聞きてみたいが おそらく田舎でも戸締りはするようになっているだろう