豆腐や

下北沢の街を歩いていたときのこと もう何十年も聞いていない 懐かしい音が聞こえてきた 豆腐やのラッパの音である 音の主は手押し車に 無庵 と書いた旗を立てた 豆腐の行商の若い女性であった 昔の豆腐や は天秤棒をかついでいた とても女性の仕事ではなかった 
女性は再びラッパを吹いた トーー フーーイ ときこえる トーーよりフーーイ のほうが高い音だ ちらっと見ただけだが 金属のすこし曲がった管状の縦笛で孔は無いような気がした 曲がった形はデザイン上のものだろう 昔のものは曲がってなかったと思う
孔の無い簡単な縦笛の場合 出る音は1音である ただ強く吹くと倍音の1オクターブ高い音が出る だから女性は フーーイの時 強く吹いたのだろうと想像した
宵待ち草 という歌がある 待てど暮らせど来ぬ人を 宵待ち草のやるせなや という歌である
この 待てど のところの マー と テー では1オクターブの違いがある 
これと似た音だったか 後から考えてみたがよくわからない
とにかく懐かしい音であった 今度あったなら豆腐を買ってみよう